〜29〜
稜の家は、最上階の角部屋だった。それは以前彼を送って来た時にも聞いている。けれども実際にそれを目の当たりにすれば、真樹は驚くより他無かった。
ここ桜の宮ハイツは十五階建てで、一棟に百五十世帯が入居している。各戸のセキュリティーは万全で、インターフォンを鳴らした訪問者の顔写真を全てパソコンに保存しておける。キーも特殊なもので、絶対に複製ができない。一戸当たりの販売価格は、最低でも六千万円はするという噂だ。
そこの、最上階の角部屋なのだ。
最上階の共用廊下は、外気を遮断できる内廊下式になっていた。マンションなのに各戸に凝った造りの門扉があり、そこから先がプライベートな空間になっている。角部屋は他よりも更にそのスペースが広くとってあった。玄関は一方の面が鏡張りになっていて、突き当たりがシューズインクローゼットになっている。床はよく磨かれた大理石張りで、続く廊下の壁には
刳り貫くようにして飾り棚が造られ、石目調の床がまるでどこかのホテルのようだった。
「凄い家ね」
子供のような感想だが、それしか出て来ない。案内する稜が、ははっ、と笑った。
リビングは扇型に近い形で、半円形に張り出した部分はほとんどが窓になっている。床から始まって天井にまで届く窓ガラスは、レースのカーテンで覆われていた。暗くてよく見えないが、その向こうがルーフバルコニーになっているらしい。
「これだけ広いと、人が暮らしているようには見えないわね」
真樹は物が少なく生活臭のないモデルルームのような部屋を見渡して、ため息をついた。
「そうかな。いつもはもっと汚いんだよ。ちょうど掃除したとこで、良かった」
母親は忙しいから、掃除は稜の担当になっているのだと言う。新年度が始まってから仕事と大学とで忙しかったから、やっと最近片付けることができたのだとも。
「これでも俺の資料や母さんの資料なんかが散らかって仕方なくってさ、最近あれ買った」
そう言って稜が顎で指して見せたのは、リビングの脇の方に置かれた白いワゴンだった。たくさんの引き出しがついたタイプで、引き出しにはめ込まれたすりガラスの向こうに、書類らしき物がうっすらと透けて見える。
その中には稜と、その母親の生活があった。
「母さんは、今晩事務所に泊まり込みだから」
あまり大きくない事務所だから、社長と言えども半端じゃない仕事量なのだと笑う。
「だから、ゆっくりしてって」
そう言って真樹にソファを勧めると、稜はキッチンに入って行った。真樹の家と違って距離があるから、彼の姿は見えなくなる。途端に真樹は一人になってしまったように感じ、心細くなった。
「ねえ……」
「ん?」
呼び掛けてみれば、奥から彼の声が応える。真樹は少し安心した。コポコポとお湯を注ぐ音がして、カップとスプーンが触れ合う、澄んだ音が響いた。
「お待たせ」
稜がマグカップを片手に二つ持って戻って来た。テーブルの上に二つ同時に降ろすと、その一つを真樹に勧めた。
「ココア?」
「……っそ」
カップの中を覗いて思わず訊き返した真樹に、稜は頷いて見せた。
「前に言ったでしょ、真樹さんチの近くのスーパーのヤツ」
そう言って、自分の分のカップを持ち上げる。
ああ、と真樹は思い出した。一緒に食事の材料を買い出しに行った時、真樹の家に近いスーパーの、プライベートブランドの物が好きなのだと言っていた。
「俺好きなんだ、ここのが」
一口含んで幸せそうな顔をする稜に、真樹は思わず破顔した。
「は……はは、おっかしい」
笑いながら、真樹は目尻に溜まった涙を指先で拭う。
「変かな」
稜が困ったように訊いた。
「ううん、そんな事ないけど……ははっ」
稜は稜だ。メディアの向こう側ではどんなにカッコ良く作り上げられていても、彼はやっぱり彼だった。
「俺、お子様だもん」
稜はそう言うと、ふかふかのソファに両足を引き上げて、膝を抱え込むようにした。そんな仕草もテレビで観る彼とは随分違っていて、真樹は緩んだ頬をなかなか戻せないでいた。
「なんか……安心したわ」
彼が淹れてくれたココアに視線を落とす。かき回されて丸くなった泡が、まるでココアの海に浮かんだ島のようだった。
「何?」
稜が訊き返す。
「あなたが随分遠くに行っちゃったような気がしてたけど……そんな事、無かったのね」
一口含めば、ココアは真樹の胸を温めた。優しい甘さに心までが丸くなって行くような気がする。もう一度覗き込めば、泡でできた島は形が崩れてカップの縁にくっついていた。
「真樹さん、ここ泡、ついてる」
そう言って稜は自分の唇を指さして見せる。真樹が上手く拭えないのを見て業を煮やしたのか、テーブルの向こう側から身を乗り出して、自分の指で拭った。躊躇いもなく、その指を舐める。
「
美味っ」
そうして稜はまたソファに深く腰掛けた。
見ていた真樹は、自分の頬が熱くなったのを感じた。と同時に、目頭までが熱くなる。
――愛しさがこみ上げて来て、堪らなくなる。
「あなたと離れて……私の時間は止まってた。忘れようとしたけど駄目で……気が付けばあなたの事、いつも思い出してた」
透かし見るように焦点も合わせず視線を漂わせると、カーテンの白さが目にしみた。日はとうに暮れていて、外の景色は見えない。これからどうなっていくのか、二人の未来もまだ見えないけれど。
「あなたは、強くならなくていい。私のこと、護ってくれなくてもいい。あなたはあなたのままで……ただ私の傍にいて。ずっとこの手を離さないで」
他の誰も、この手に触れられないように。稜以外の人間に、二度とこの手を取らせたくないと真樹は思った。
「あなたと並んで歩きたい。何気ない日常を、あなたと一緒に過ごしていきたい。これからも、自分に自信をなくす時が来るかも知れない。どうしようもない壁にぶつかって、立ち止まってしまうこともあるかも知れない。だけど……」
漂わせていた視線を、稜の顔の上で留める。彼の瞳も、こちらを見つめていた。
「そんな時には隣を見るから。私の隣を並んで歩く、あなたを見るから。それだけで、私はまた前に進める。あなたが一緒にいてくれると知るだけで、私はきっと強くなれる。だから……一緒に行こう?」
熱くなった目頭が、更に熱を帯びた。
「あなたが、好き」
もうぼやけてしまって、何も見えない。ただ世界を形作る彩りだけが、輪郭を失って真樹の周りにあった。その一つが影となって近づく。音も無く近づいたその影に、真樹は抱き締められていた。
「俺だって男だから」
すぐ耳元で稜の声がする。鼻にかかった甘い声。間近で聴けば、一層甘く感じた。
「好きな人のこと、護りたいって思う。いくら年上のあなたでも。……少しはカッコつけさせてよ」
稜が笑う。
「……『好き』って、初めて言ってくれたよね」
一層強く抱き締められた。
彼の言葉に、真樹は改めて気付いた。『好き』という言葉を言ったのは、これが初めてだったということに。彼の前で自分の気持ちを認めた時にも『好き』とは告げなかった。稜に対してだけではない。耕治にも、その前に付き合った人にも、自分から望んで好きと言ったことはなかった。
「俺一人じゃ弱いまんまだけど、二人一緒ならきっと俺は強くなれるよ。あなたが大切だから。あなたさえ俺を信じてくれたなら……俺を好きでいてくれたなら、前に進める」
ゆらり。
また体が揺らされる。こうしていると、本当に彼に護られているような気がした。
「俺達は前に進まなくちゃいけない。もしどうしても駄目だった時には……あなたと俺の抱える不安ごと、弱いまんま生きて行こう? 二人絶対に離れずに、後ろ向きでも何でも一緒に生きて行けばいい。だけどそれまでは、足掻いてもがいて、醜態晒してでもあなたを護ってみせるから」
だから……と、彼は続けた。
「真樹さんも覚悟決めて。俺はもう二度とあなたを離さない。だからいずれ『稜』の問題にあなたを巻き込む事になる」
稜が抱き締めていた腕を緩め、真樹の顔を覗き込んだ。
「ホントは何もできなくても、カメラの前に立てば、俺は人に夢を与えることができる。そして俺も、そんな自分自身に背中を押されながら生きていけばいいんだって……全部あなたが教えてくれた。あなたを失ってから、何度もこの言葉、噛み締めてた。だから俺、『稜』としてやっていく決心がついたんだ。この夢叶えたい。もっといい仕事がしたい。だけどそうなったらきっと、あなたをもっと傷つけることになる」
彼の表情が少し、辛そうになる。
「だけどそれでも傍にいて。決して離れないで。俺の気持ちを疑わないで。あなたが俺を信じていてくれれば、きっと俺はあなたを護れるから」
寄越される眼差しは、心の底まで射抜くようで……生半可な覚悟ではないことを、雄弁に物語っていた。
始まりは雑誌の読者モデル募集の企画に、誰かが勝手に応募して通ってしまった事だった。母親が元モデルだったから、幼い頃からそんな世界は身近にあった。あながち縁の無い世界ではなかったので、すんなり溶け込んだように思う。母親の経歴も手伝って、最初から話題性もあり、良いスタートを切ることができた。オーディションで別格扱いされる事も多く――もちろん「イメージに合わない」と降ろされる事もあったけれど――比較的とんとん拍子に仕事が取れた。
大きなタイアップの仕事を
演って、更に顔と名前が売れた。それまで主だったスチルの仕事からテレビにも出させてもらえるようになった頃、学校側と揉めて休業宣言をした。ちょうどオンで売れて行く自分とオフの自分との落差に悩んでいたから、少し離れて自分を見つめ直す良い機会だと事務所の人間にも言われた。
しばらく離れてみて、それでも自分はこの仕事が嫌いではないと感じた。別の人格が作られて行く過程を、楽しんでいる自分がいた。それに至るまでにこなさなければならない厳しいレッスンやストイックな生活でさえ、楽しいと思えた。スタッフ皆で協力してひとつの作品を創り上げる喜びを、もっと感じたいと思った。
――だからこそ。
またこの世界に戻って来たのだ。半端な覚悟ではなかった。『商品』として自分を前面に押し出すなら、自分のプライベートさえ『商品』なのだと覚悟した。
そう腹を括ることができたのは、真樹に背中を押されたからだ。彼女の示してくれた道を進むことで、例え彼女を失っても共に在る事ができるような気がしていた。その彼女が、今は自分の傍にいる。名前を呼べば応えてくれる――心の中の残像なんかじゃなくて、手を伸ばせば触れることのできる、生身の人間として傍にいる。
けれど……。
そうやって一緒に居られる事は嬉しかったけれど、世間の目にはスキャンダラスな事と映るだろう。折角またこうやって寄り添うことができた二人なのに、それを引き離そうとする人達も出てくるかも知れない。
彼女を護らなければならない。もう二度と、彼女を失うわけにはいかなかった。だから、自分と彼女が二人でいる事を、是が非でも周囲に認めさせなければならない。
――でもどうやって?
何が最良の方法なのか、今はまだ見つけられずにいた。答えは必ずどこかにあるはずだけど、そこに至るまでの道の入り口は、まだ深い霧の中だ。けれども霧はきっと晴れる。何故ならもう、自分は一番大切なものを手にしたから。
『あなたが、好き』
彼女がくれた大切な呪文が、何度も何度も胸の中にこだました。
もう帰らなくちゃ、と言うと、稜に引き止められた。
「明日は仕事なのよ」
真樹はそう言ってソファから腰を上げた。明日は週明けだから、「昨日は遅くまで遊んでいました」などという顔で出勤するわけにはいかない。
「それになんだか落ち着かないわ、ここ」
天井が高くて装飾の多い、モデルルームのようなリビングを見渡す。
「うちとあまりにも違い過ぎるんだもの」
そう言って、真樹は笑った。
「このマンションは、さ」
稜も立ち上がる。
「俺がモデルの仕事はじめてから買ったんだ。ちょうどその頃新築で出てて、セキュリティがしっかりしてるからって母さんが選んだ」
壁際に歩み寄ると、稜はリモコンのスイッチを押した。レースのカーテンの上をゆっくりと遮光カーテンが覆って行く。真樹はただ呆気にとられて、その行方を眺めている事しかできなかった。
「だから、ここは母さんの家」
自分は居候みたいなものだから、と稜は続けた。
「俺さ、車買ったんだよ。自分の車」
ちょっと来て、と稜が手招きする。真樹が傍に行くと、彼はカーテンに潜るようにして窓を開け、バルコニーに降りるよう真樹を導いた。
「こっからなら見える」
ルーフバルコニーはリビングを挟んで二方向に分かれていて、一方は途中からウッドデッキになっていた。真ん中辺りにガーデンテーブルとアームチェアが置いてある。その脇を抜けると、彼は手すりに寄り掛かるようにして下を指差した。
「あそこの端の方……ほら、防犯灯の真下の車」
眼下に見える立体駐車場の最上階端の方に、白い小さな車があった。ここ桜の宮ハイツの住人専用の駐車場だけあって、並んでいる車はどれも高級そうな車ばかりだ。その中で稜の車だけが、とても小さかった。
「……自分で?」
そう訊いてみたけれど、真樹の中には確信があった。彼はバイトで貯めたお金で、あの車を買ったのだろう。親に頼らずに、自分の力で何かしたかったのかも知れない。
「うん、中古だけど」
案の定、誇らしげな応えが返って来た。
「高校はあんな私立に行かせてもらってたし、今だって大学はその上の所だし。それだけで俺には充分だよ。自分の欲しい物は、自分で手に入れなきゃ」
小さな白い彼の車は、防犯灯に照らされてキラキラと輝いて見える。それはまるで、彼の誇らしさを映して煌いているように思えた。
真樹は並んで立つ稜の顔をそっと見上げた。愛しさが、また募る。自分の道を自分の力で切り開いて行こうとする、柔軟で強い力を感じた。
「真樹さん」
稜がこちらを向く。目が合った。
「だから欲しい物は、自分で手に入れるんだ」
不意に抱き締められた。
「今日は……帰らないで」
翌朝早く、真樹は目を覚ました。見慣れた自分の部屋ではない。隣を見れば、満ち足りた顔の稜が眠っていた。彼を起こさないように、そっとベッドから抜け出す。床に散らばった服を拾って着終わった頃に、稜が小さく唸って寝返りを打った。
「ん……もう行くの? 何時? ……まだ早いじゃん」
寝ぼけ
眼でそう訊かれる。
「仕事があるって言ったでしょ。帰って着替えなきゃ」
バッグも拾い上げる。
「ふうん」
稜が口を尖らせた。
「ここ、キーが無いと出られないよ。じゃあね、おやすみ」
そう言ってこちらに背中を向けると、また布団を被ってしまった。
「えっ、困る……どうしよう」
困惑顔で辺りに視線を彷徨わせていると、布団の中身が震えているのに気付いた。
「うーそ」
布団を思い切り良く撥ね退け、稜が顔を出した。
「タッチキーが無いとエレベーター動かないのはホントだけど、ちゃんとロック解除してあげるから……」
稜は笑い続ける。真樹は小さく息をついた。両の腕を組んで、したり顔の彼を見下ろすと、深く腰を折る。
「……え」
至近距離で稜の笑い声が止むと同時に、唇を触れた。優しく彼の唇をついばむと、真樹は目を開けた。
稜の瞳が、焦点も合わない程近くでこちらを凝視している。真樹は目を細め、彼の唇を解放した。
「真樹さんの方からキスしてくれるなんて……これも初めて?」
夢の中にいるような顔で、稜が言う。
「……そうね」
真樹はバッグを抱え直した。
「非日常を、日常に変えて行かなくちゃ」
指で髪を後ろに梳き流して、真樹は自分に言い聞かせるように小さく頷く。不思議そうにこちらを見上げる稜は、それでもその意味を理解したようだった。
一旦自分の家に帰ってシャワーを浴び、仕事用のスーツに着替えた。テーブルの上に出しっ放しだったはずのマグカップが二つ、中身を零して流しに置いてあった。
「ごめんね」
昨日の事を思い出せば、耕治に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになる。利用してもいいからという彼の言葉に縋って、本当に利用してしまったのだ。
『あなたが、好き』
初めて稜にそう告げた。だから、もう迷ってはいけない。初めて心から欲しいと思えた人を、二度と手離してはいけない。
携帯を取り出し、
征人の番号を呼び出す。ヤツにもちゃんと説明しておかなきゃ、と思った。
『……はい』
しばらく呼び出し音が続いた後、面倒臭そうな声が応える。まだ朝も早いから、征人は眠っていたようだ。
「もしもし」
『なんだ、真樹か。何か用?』
大きなあくびがその後に続いた。
『……あ、そうだ。冷蔵庫に姉ちゃんの漬物と母さんの佃煮入ってるから食べて。どうせ昨日は俺の話なんか、聞いてなかったんだろ?』
何か用かと訊いた後で、真樹の返事も待たずに征人は続けた。電話の向こうで、引き出しを開閉するような音がする。ヤツは起きて、着替えでも探しているらしい。
『それにしても驚いた。少し話したけどさ、真樹の元彼だろ、あの人。なんでおまえん
家にいるんだよ。稜はどうした、稜は?』
ドスドスと歩き回りながら、自分の言いたい事ばかり喋っている。真樹には話をさせないつもりなのだろうか。
『面白そうだから、折角姉ちゃん
家とウチの冷蔵庫からテキトーにかっぱらって口実作って持ってってやったのにさ、何、修羅場ってんだよ。てっきり俺は、稜がいるかと思ってたのに』
「別れたのよ」
やっと真樹も口を挟む事ができた。
『えーっ、別れたぁ?』
「それで、またやり直すの」
『なんだ、そりゃあ』
呆れたような弟の声に、真樹は苦笑する。
「もう離れないから」
『……ふうん、そりゃご馳走様』
投げやりだけれど、認めてくれているような声色だ。温かい征人の返事に、真樹は一層自分の気持ちがより確かなものになったような気がした。
『で? 朝まで稜と一緒だったのかよ』
わざと押さえた調子で訊ねられる。
「……え」
真樹は、自分の頬が一気に熱くなるのを感じた。
『でなきゃ、こんな時間に掛けて寄越さないだろ? まったく、こっちは昼まで寝ようと思ってたのによ』
最後の方は、文句に変わった。
『そんで? 用って何?』
とってつけたように訊かれる。何を今更……と、真樹は可笑しくなって噴き出した。
「今、話したことが用事だったの。心配かけたみたいだから、あんたにもちゃんと知っててもらいたくて……色々、ありがとね」
不安はある。今から立ち向かわなければならないものを考えれば、ちゃんと克服して行けるのだろうかと、つい弱気にもなってしまう。けれどももう、自分は一人ではない。稜と二人なら、どんな強い風の中でもしっかり顔を上げていられそうな気がした。
『……よかったな。頑張れよ』
少し照れたような征人の声に、真樹は唇の端を持ち上げて頷いた。