> 彼の気持ち INDEX  > 彼の気持ち
 

彼の気持ち


〜通じた想い 二〜


 桐生さんの香りがする。すぐ近くに桐生さんの吐息を感じる。頭の奥が痺れたようになっていた。クラクラと軽い眩暈を感じながら、僕はこの事態を理解しようと真っ白になった頭を働かせた。状況が飲み込めて来ると、感覚が戻って来る。
「桐生……さん。く……苦しい」
 彼女の腕が僕の首を締めているのにも気が付いた。
「あっ……っ。ごめんっ」
 彼女の腕が緩むと、僕は何度も大きく息をした。絞め殺される前に気がついて良かった。
「ごめんね。大丈夫?」
 彼女は心配げに僕の顔を覗き込む。視線が絡まる。
「今言ったこと本当?」
 桐生さんの眼を見つめたまま聞く。彼女も視線を外さない。
「う……うん。ホント」
 そのままの姿勢で、彼女は答えた。
「じゃあ、どうして僕のこと避けたりしたのさ」
少し険しい表情になったのが自分でもわかった。
「それは……」
「『それは』?」
「それは……。いつも葛西くんが自信たっぷりで大人だから」
 言い淀んでいたが、堰を切ったように彼女は話し出した。
「それに比べて私はなんにも取り柄がなくて、でも葛西くんは何でもできて、私はつまらない人間で、不恰好でテニスも負けちゃうし、だけど葛西くんはバスケだって上手くて、羽が生えてるみたいだったし、今日も衣装が良く似合ってカッコよくて、それに……」
 待ってくれ。だんだん支離滅裂になってきたぞ。
「ちょっ……。ちょっと待って」
 慌てて制止する。
「羽が生えてる……って良くわからないけどさ。僕のどこが大人だって?」
 そう言って僕はひと息つく。額にかかった前髪をくしゃっと掻き揚げた。
「僕なんてすごく子供で独占欲が強いし、自分に自信がないから桐生さんにも無理強いできないんだよ」
「自信がない……?」
 不思議そうに彼女が見上げる。
「そう。自分に自信があったら、今頃こんな所でウジウジしてないよ。桐生さんにだってもっと積極的にアタックするさ。あの時告白したのだって、たまたまキッカケが有ったからで……正直、心臓バクバクだったんだよ」
「そう……なの?」
「そうなの! それに桐生さんのどこが『取り柄がない』んだって? 君は綺麗だし努力家だし、自分をしっかり持ってるじゃないか。まわりに流されて、自分の上辺だけ飾るような真似はしてないだろ?」
 つい強い調子で僕は言った。
「僕が好きになった人だ。君の悪口は、例え君でも言わせない」
 感情が昂ぶって、気が付いたら彼女を抱きしめていた。彼女の髪がフワッと僕の頬にかかった。
「自信持って。大丈夫。桐生さんは素敵だよ」
 僕は自分でもびっくりする位、優しい声でささやいていた。


 桐生さんの体が、僕の腕の中にある。それだけで、僕は舞い上がってしまいそうだった。今までどんなに願っても叶わない望みだと思っていたのに。僕は……とても幸せだった。


「あの……葛西くん」
 その幸せを、桐生さんの声が現実に引き戻した。
「ここってさ、お化け屋敷だったよね」
「うん? そうみたいだけど」
「私たち、さっきからお化けに会ってないような気がするのよね」
 僕は彼女の体にまわしていた腕をゆるめた。
「そういえば……そうだな」
 入口を入って、僕達は随分歩いた。迷路のようになっているとはいえ、もとはそんなに広くない理科室だ。もう半分位は過ぎただろう。その間に『お化け』が一匹――と数えるのか?――も出てこないのは、おかしいといえば、おかしかった。
「まさか……」
 僕は小声で桐生さんに動かないように言い残し、足音をしのばせて次の角を曲がった。その途端。
「わあっっっ!」
「うぎゃっ!」
 悲鳴と共に、目の前の柱が崩れる。
『ゴロゴロ……』
 鈍い音を立てながら、崩れた柱が五つに分かれて床に転がる。柱だと思ったのは『お化け』だった。正確に言えば、お化けの扮装をした、このクラスの生徒。僕達の話を立ち聞きしてたんだ。多分、肩車なんかしてたんだろう。トーテムポールみたいに。
 白い布を頬かむりのようにかぶった人体模型も、その脇に立っている。恥ずかしさと怒りで、僕は顔に血が上るのを感じた。
「どしたの?」
 驚いて走ってきた桐生さんが、『お化け』と僕を交互に見比べてたずねた。
「どうもこうもない。こいつら僕たちの話、立ち聞きしてたんだよ」
 僕の声は怒気を含んでいたようだ。『お化け』たちには充分な威嚇になったらしい。
「ち……違うよ。出て行こうとしたらタイミングを失っちゃって……」
「そ……そう。なんか、取り込み中だったみたいだから……ね」
 そう言って五匹の『お化け』たちは、乾いた声で取り繕うように力無く笑った。
「でっ……でも、こんなトコロでゴチャゴチャやってる私たちも悪いんだし」
 桐生さんがあわてて仲裁に入る。
「ごめんね。みんな。あの……私たち、さっさと出るから」
 早口で『お化け』に謝ると、彼女は僕の背中を押した。そのまま出口に向かって全速力で歩き始める。そのあとの道順でも『お化け』に会ったが、みな一様に照れ笑いを浮かべながら
「どーも」
 なんて挨拶して来る。どうやらお化け屋敷運営のクラス全員に、僕達のことは伝わってしまっているようだ。
背広に帽子姿でニヒルにポーズをきめる骨格標本にも会ったが、彼女は怖がる余裕も無いみたいだった。僕はその骨格標本、結構気に入ったのだけれど。


 パーラーで休憩し遅めの昼食を済ませたら、二、三のアトラクションを楽しんだ時点でそろそろ片付けの時間になってしまった。僕達は自分の教室に戻る。
「悠真ぁ。どう?楽しかった?」
 カウンターで売上の計算をしていた名倉さんが声をかける。
「うん。おかげさまで。……茉由、ご苦労様。あと替わろうか?」
「ありがと。大丈夫だよ。それよか、さっき委員長がテーブル片付けるのに手が足りないって言ってたから葛西くんに手伝ってもら……!」
 ふと顔を上げた名倉さんの視線が、僕の首の辺りで留まった。
「ん? どうした? 名倉さん」
 名倉さんの顔がみるみるうちに赤くなる。
「アンタたち……。何やって来たのよっ!」
彼女は小声で、でも強い調子で言う。
「葛西くんの襟! これアンタのでしょっ!」
 名倉さんが桐生さんに向かって言った。
「あ」
 桐生さんの顔も赤くなる。
「?」
 訳がわからない僕に、桐生さんがそっと耳打ちした。
「私の口紅。葛西くんの襟についちゃった」
 三人は教室の真中で、顔を赤くしてうつむいてしまった。


 文化祭も無事に終わり、テストや個人面談などあまり有り難くない行事に追われるうちに、街中にジングル・ベルが鳴り響く季節になった。
「クリスマスかぁ……」
 学校帰りに駅前通りを歩いていると、否が応にも商店街のディスプレイが眼に入る。クリスマス・カラーの赤白緑に金色が映えて、とても綺麗だ。やっぱ女の子にとっては一大イベントなんだろうな。クリスマスってさ。僕にとっても大切な日ではあるけれど。
 まったく『聖夜』なんて安直な名前、誰が聞いたってすぐに僕がイブ生まれだってわかっちゃうよな。誰が聞いたって……。いや。
「桐生さんなら、気づいてないかも」
 彼女の事だ。それはあり得る。そう思ったら自然と笑いがこみ上げて来た。


 何気なくショーウィンドゥを覗きながら歩いていると、黒と金を基調にしたシックな飾り付けの宝石店の前にさしかかった。ずらりと豪華な指輪やネックレスが並んでいる。
「こういうの、欲しがるんだろうな」
 よくテレビで見るぞ。クリスマスに女の子が彼氏に指輪なんかねだってるトコ。桐生さんと付き合う前は、そういうの毛嫌いしてたけど、今はそうやって『おねだり』されてもいいかな、なんて思ってる。買えるかどうかは別として。
 でも彼女からは何もねだられていない。遠慮してるって感じじゃないし、こういうの、彼女は興味ないんだろうか。
 なんとなく端から端まで順に見ていると、赤い石の指輪が目に留まった。石は小さいけれどキラキラと照明に輝いて、つい僕は見入ってしまった。
桐生さんがこれをつけたら……綺麗だろうな。彼女の白い指に赤色が映えて良く似合うと思う。値段を見る。うげっ。小遣いじゃ買えないぞ。ま、指輪じゃなくてもいいんだし……。
 僕は諦めてまた歩き出した。


 駅前通りを過ぎると住宅街になる。商店はまばらだ。僕の家まではもう少し。さっきの指輪が頭をよぎった。買えないけどなんだか気になる。考え込んでいたら、曲がるはずの角を通り過ぎてしまった。戻ろうとしてふと顔をあげる。
「あ」
 角から三軒目のケーキ屋の前に立っていた。僕の目は、その店に釘付けになる。正確には、ケーキ屋のショウウィンドゥの端に貼られた張り紙。
『短期アルバイト募集』
 これだ。
「すみませーん」
 僕は迷わず、店の中に入って行った。


「ごめん。待った?」
 改札を抜けて、僕は桐生さんに声をかけた。今日は終業式。明日から学校は冬休みに入る。今朝はどの部も練習が無いので、僕達は降りた駅で待ち合わせをしていたのだ。
「私ゃハエになっちゃったよ。ほら見て。こうして手をこするとさ、似てるでしょ」
 桐生さんが手をこすってみせた。
「ハエか。桐生さんらしい発想だな」
 僕は笑った。
「葛西くんはいいね。暖かそうで」
 彼女はじぃっと僕のマフラーを眺める。
「貸してあげようか」
 僕はそう言って、するするっとマフラーの結び目を解き、彼女の首にぱふっと掛けた。
「あ……そんなつもりじゃなかったんだけど」
 彼女は照れたように顔を赤くして笑った。首のあたりがスースーするけれど、彼女がマフラーをもう一巻きするのを見るとなんだか嬉しくなってしまった。僕が彼女の首に腕を回して暖めているような感じがしたんだ。


「早いねー。もう二学期終わっちゃうよ」
 彼女が僕を見上げる。
「もうすぐクリスマスだな」
 マフラーにはさまれて少し乱れた彼女の髪を手で()き直しながら、僕は呟いた。彼女はおとなしくされるがままになっている。
「葛西くんは何か冬休みの計画ある?」
 来たか。
『バイトをする……彼女と会えない』という問題があるけど、僕はもう決めてしまった。
「僕はバイトする事にしてるんだ。短期集中のヤツ」
 さりげなく言う。理由を聞かれると困るけれど……。
「ふうん。そうなんだ」
 下を向いた彼女の顔が曇ったのを、僕は見逃さなかった。
「あ。今『つまんない』とか思っただろ?」
 彼女の顔を覗き込む。なんだか楽しい。
「そ……そんなことないけど」
 否定されて、ちょっと拍子抜けしてしまった。
「なーんだ。つまんないの」
 僕は、終業式なので何も入っていない学生鞄を放り上げた。
「バイト、何するの?」
 宙を舞う鞄を眼で追いながら、彼女はたずねた。
「ん。近くのケーキ屋でケーキ作るんだ」
「あぁ、それで短期集中?」
「そ」
 落ちてきた鞄を両手で挟むようにキャッチすると、僕は顔だけ彼女の方に向けてニコッと笑った。
「イヴの夜ね、出て来れない?」
 鞄をキャッチした姿勢のままたずねる。
「うん。大丈夫……だと思う」
 よかった。ここが一番大事なトコだったんだ。
「バイトさ、イヴの夕方五時までなんだ。時間、六時くらいでどう?」
「わかった。六時ね」
 彼女はニコッと微笑んだ。


 バイト、バイト、そしてバイト。冬休みに入ってから僕はバイトに明け暮れた。ケーキの飾りつけや箱詰めが僕の担当だ。
 そして今日はバイト最後の日。つまりクリスマス・イヴ。今晩、桐生さんと会う約束をしている。バイトが終わったら、バイト料をもらって、その足であの宝石店に行って指輪を買うんだ。


「あんまり売れんなー」
 ケーキ屋のオーナーがため息をつく。
「え? どうしたんですか?」
 ケーキを箱詰めしながら、僕はオーナーを振り返った。
「予約の分より多めに作ったんだけど、それがあんまり売れ行きが良くないんだな」
 難しい顔でオーナーは言った。世の中不景気で、ケーキも小さめが売れるという。余分に作った分が売れ残るのも無理ないかも知れない。
「葛西くん。ちょっと……」
 オーナーがくいくいと手招きする。なんだ? ロッカー兼物置になっている小部屋に連れて行かれた。まあ、僕は男だから、こういう時に身の危険を感じたりはしないけどさ。
「これに着替えて表に立っててくれ」
 バサッと放り投げてよこしたのは……赤いサンタクロースの衣装。
「こ……これ着るんですかぁ?」
 手に持ったソレとオーナーの顔を交互に見つめて、僕はすっとんきょうな声を出した。
「あ。顔は隠さなくていいから」
 ありがたいお言葉が、返事の代わりに返って来た。


 店先に立って僕は下を向いていた。赤いサンタクロースの衣装に帽子。……それだけ。本来なら白いヒゲもセットになっていたのだが、それはオーナーに取り上げられてしまった。顔が見えていた方がいいんですと。ヒゲがあれば少しは顔が隠れて恥ずかしさも軽減されるのに。
 女子大生らしい一団が目の前を通り過ぎる。と、その中の一人が振り返った。
「あの子かわいいーっ。ねえ、ケーキここで買ってかない?」
 げ。こういうことか。オーナーっっ!
「い……いらっしゃいませ。どうぞ中へ」
 愛想笑いをしながら、僕は腹をくくった。


 あれから僕は何時間も店先で立っていた。いや、立たされていた。
「葛西くんっ! 頼む、時間延長してくれ!」
 僕が店先に立ったら女の子の客が増えたと言って、帰ろうとする僕をオーナーが涙目で引き留めたんだ。バイトは五時までの約束だったのに。でも、おかげで、余分に作ったケーキも完売。オーナーはすっかり上機嫌で、僕にバイト料と一緒にケーキとシャンパンを持たせてくれた。それはいいんだけど……。
「わっ、やべ。時間過ぎてるっ!」
 桐生さんとの待ち合わせの時間は、とっくに過ぎた。それに。
「あの店も閉まっちゃうよ」
 僕は猛ダッシュで例の宝石店に向かった。


 彼女との待ち合わせの喫茶店。約束は六時だったのに、もう七時をとっくに過ぎている。いるかな。帰ってしまったんじゃないだろうか。入口のドアを開け、中に入る。
「いらっしゃいませ」
 ウェイトレスの声が響く。桐生さんは……と。窓際の席にポツンと背中を向けて座っていた。その背中が寂しそうで、悲しそうで……僕は胸が締め付けられたような気がした。
「はぁ」
 彼女の後ろに立った時、大きなため息が聞こえた。
「何ため息ついてんの?」
 頭を撫でる。彼女が顔を上げた。
「葛西……く……」
 言葉の最後は涙声になってしまった。彼女はクリスマス・カラーの赤をポイントにしたワンピース。シルバーのネックレスをつけている。
「ごめん。ホンっとにごめん!」
 僕は彼女の向かいの席に座り、脱いだコートを隣の椅子に置くと顔の前で手を合わせた。
「この不景気で、思ったより売上が伸びなくてさ。ケーキ残んないようにサンタの格好させられて店の前に立たされたんだよ。おまけに時間も延長してくれって泣き付かれてさ。ひどいだろ」
 走ってきたところに一気にまくしたてたので苦しい。
「でもさ、おかげで女の子の客が増えたって、これもらった」
 箱に入ったケーキとシャンパンを取り出す。少し遅れて、例の店で買ったものも。
「何? これ」
 彼女は僕の顔を見上げた。
「開けてみな」
 口の端をあげて笑顔を作り、彼女を促す。どんな反応をするんだろう。
ガサゴソ……。
「指輪じゃないの。どうしたの?」
 中身を見て彼女は驚いたようだ。
「それ買うためにバイトしたんだ」
 僕は照れてしまって、前髪をくしゃっとかき上げた。
「前から目星はつけてあったんだけど、バイト料入るの今日でさ。間に合わないんじゃないかってアセったよ」
 僕は箱から指輪を取り出した。
「手だして。……違う。右じゃなくて左手」
 そして彼女の手をとり、薬指にはめる。
「よかった。ぴったりだな」
 サイズもちょうどいい。それに何より彼女の白い指によく映える。桐生さんは信じられないものを見るような、でも何か問いたげな眼で僕を見つめた。僕は静かに頷く。
「そういうこと。今から予約だから」
 うわーっ。言った! もうあとは微笑むだけで精いっぱいだった。
「あ……の……バイト終わってから買いに行ってくれたの?」
「そ。閉店ギリギリ」
 僕はぺろっと舌を出した。
「ありがと……う」
 彼女はまた半ベソ状態になった。僕達は喫茶店を出た。


「あ……。そういえば私も葛西くんにプレゼントあるんだ……けど。……う……」
 彼女はそこで躊躇した。
「なに?」
 彼女の顔を覗き込む。
「私……ロクな物じゃないんだ」
 彼女はポケットの中に手を入れた。
「何でもいいよ。桐生さ……悠真が僕のために選んでくれた物なら」
 呼んだ! 名前で。
「ホントに笑わない? がっかりしないでね」
 そう念を押すと、彼女は包みを取り出した。破らないように注意して包みをほどく。
「シャープ? ははは……。ちゃんとネーム『S』って入れてくれたんだ」
 箱の中身はネーム入りのシャープ。
「前に葛西くんがきっかけ作りに使ったシャープ……。私が沢田くんにあげちゃったから……」
 下を向いて、蚊の鳴くような声で彼女は言った。
「悠真らしいね。ありがとう」
 僕は笑った。
「今日は僕にとって特別な日だから。二倍嬉しいよ」
「え? 何かあったの?」
 ビンゴ! やっぱり知らなかった。彼女らしいや。僕は真っ暗な空を仰いだ。
「僕の誕生日。これで悠真と同じ十七歳だな」
「へ? 葛西くんって、クリスマス・イブ生まれだったの!?」
「普通は名前見て気づくよ。『聖夜』なんて名前、イヴ生まれのヤツ以外の誰に付けるのさ」
 僕は笑いをこらえ切れなかった。


「どうしよう。誕生日プレゼント、用意してないよ」
 情けなさそうな顔で、彼女は僕を見上げた。僕は笑顔のままじっと見つめ返す。木々に巻きつけられたイルミネーションがまたたいている。彼女の顔の上にも映っている。幻想的な気分だ。僕は彼女に近づいた。前に立ち、頬に手を添える。
「じゃ、プレゼントくれる?」
 彼女の眼をじっと覗き込む。二人の顔が近づいた。イルミネーションに照らしだされたまま、唇と唇が重なった。クリスマス・ソングが流れ、二人を祝福しているようだった。


「聖夜……くん」
 小さな声で彼女がそっと呼ぶのが聞こえた。