> 氷の楼閣 INDEX  > 氷の楼閣
 

氷の楼閣


〜序〜


カーネリア王国史には綴られる。
その昔、まだ世が混沌としていた頃。
荒れたこの地に、一人の武芸に秀でた男が現れた。人々に請われ、男はこの地に人の住める国を造らんとする。
神がかったその技量は、他の追随を許さなかった。だがそれでも、この地を平定するのには、並々ならぬ労苦を要した。
そうして、男は国の(いしずえ)を造った。


男が死した後、人々の願いは子に引き継がれ、その者もまた大変な犠牲を払ってそれを国と呼ばれるものにまで成した。
多くの血が流されたが、それと引き換えに、男に付き従う人々は安寧の暮らしを手に入れる。信仰が生まれ、男と、それに連なる血筋の者は、いつしか王と崇められた。
そうしてここに、カーネリア国王室が誕生したのである。


流された血の分だけ――取られた命の数だけ、人々の想いは大気に溶け、行き場を求めてこの地に染み付いた。それは呪いのように(こご)って、この国の王室の血筋にまとわりつくこととなる。


――決してこの血筋を(けが)してはならぬ。敗れ、散って逝った者の矜持(きょうじ)を、ないがしろにしてはならぬ。この王とそれに連なる者が統べる国の為ならば、納得もしよう。だが他の血筋の者がこの国の玉座を得ることは許さぬ。王室の血を穢せば、すなわちそれはこの国の滅亡を意味するのだ――と。


(ごう)を背負って玉座に座る王は、代々冷徹ながらも的確な(まつりごと)を行なったのだという。
そしてそれは、この国に確固たる繁栄をもたらしたのであった。


カーネリア王国史の冒頭、神話との区別もつかぬ程、昔の話である。