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桜夜叉


〜七〜


 夜叉と暮らす内に、己もまた鬼となってしまったのか。アヤメの放つ禍々しい『気』を、サクラは心底怖ろしいと思った。
 人からこのような剥き出しの憎悪を受けたことは、今までただの一度もない。サクラは、桜の郷において二番目に格の高い家に生まれた。だからなのかも知れないが、郷という狭い世界の中で知る限り、サクラにあのような物言いをする者はいなかった。
 アヤメが行ってしまった後、サクラの室ではシノノメが三日目の宵の仕度をし始めた。表情の乏しいこの侍女は、それでも最初の日よりも随分とヒトらしい仕草を見せるようになっていた。アヤメの侍女が随分表情豊かだったことから、自分の為に作られたシノノメも、日を経るにつれてあのようになっていくものと思われた。
 サクラは褥に座ったまま、シノノメの立てる衣擦れの音を聞くともなしに聞いていた。ふと庭に眼を転じれば、桜はずっと華を散らし続けている。散っても散っても尽きることのない華に、寄せては過ぎて行く夜叉の『時』を思った。
――あの桜はまるで、蘇芳の君の生きる『時』のよう――
 いつ果てるとも知れない命を、生きていかねばならない。夜叉とてこの世のものであるからには、いつか終わりは来よう。それでもヒトよりも長い、気の遠くなるような時を、この『亜』の世で生きる蘇芳。
 自分は共に生きることができるのだろうか。
 夜叉の花嫁となってしまった以上、それしか他に道は残されていない。けれどもまだ、ヒトであることを諦められずにいる。アヤメのように共に生きる内にこちらまで鬼になってしまうのであれば、それはとても怖ろしい事だった。
 サクラは立ち上がり、御簾をくぐって自分の室を出た。簀子を通り、(きざはし)近くまで寄ってみる。庭の桜が、一層近くに見えた。
「そのように端近(はしぢか)に寄られてはいけません」
 そんなサクラを、シノノメがたしなめた。
 貴族の姫であれば、このような事はしないのだろう。だが郷で二番目に格の高い家とはいっても、所詮は鄙びた郷の暮らしである。都の貴人の家とは違って、深窓の姫のような振る舞いを強いられた事はいなかった。
「私は姫ではないわ」
 振り返り、苦く微笑んで見せる。
「ここには蘇芳の君とその花嫁以外いないのよ。誰に顔を見られるというの」
 階の中ほどまで降りてみる。渡る風が、夜の匂いを運んで来た。
「蘇芳の君は、かつて貴人の暮らしをしておいででした。花嫁となられたお方にも、そのようにお望みです」
 シノノメが簀子に出て頭を垂れる。サクラはしばらくその様を眺めていたが、侍女はいつまでも動こうとしない。ひとつため息をついて、サクラは階から簀子に戻った。


 辺りはすっかり暗くなり、灯されたままの燈台の灯りに室の中が揺らめいて見える。そろそろかと待っていると、簀子の辺りに誰かの気配を感じた。
「わたしじゃ」
 蘇芳の低い声が聞こえる。サクラは両手をついて頭を垂れた。
 シノノメが御簾を巻き上げる。少し頭を低くして、蘇芳が室の中に入って来た。
「さて、今宵が三日目だが……」
 立ったままサクラを見下ろす。次に何を言われるのかと、頭を垂れたままサクラはじっと息を凝らした。
「その様子では、気持ちは変わってはおらぬようだな」
 緊張の糸を感じ取ったのか、蘇芳が小さく笑った気配がした。衣擦れが聞こえ、目の端を蘇芳の色が横切る。突然の色彩に驚いてサクラが顔を上げると、桜の襲の袿がひとりでに衣桁にかかるところだった。
「三日夜の餅は、明日の朝シノノメに用意させる。それが済んだら、そなたをわたしの花嫁として他の者に披露目する。ヒトの世の露顕(ところあらわし)とは、逆になるがの」
 そう言うと、蘇芳は静かに横になった。
 サクラは座ったまま、目を瞑ってしまった蘇芳を見下ろしていた。親も縁者もいないこの宮で他の者と言えば、他に幾人か居るという妻達のことだろうか。そんな事をして、またアヤメに憎しみの念を向けられたら……。
 そう考えるだけで、気が滅入ってくる。
「どうした?」
 蘇芳が薄目を開けて問うた。
「……どうしても披露目をしなければなりませんか」
 消え入りそうな声で、サクラは言った。精一杯の抗いのつもりだった。
「誰一人として、縁者もおりません。披露目などせずとも、このまま静かに……」
「だめじゃ」
 きっぱりと、蘇芳が否を唱えた。
「何故嫌がる? そなたはわたしの花嫁。三日夜の餅を食べ、露顕をしなければならぬ」
 上体を起こし、サクラをじっと見据える。
「そのような儀式など、他に人のいないこの宮では意味がないでしょうに……ここの主はあなたです。あなたがそうと決めたのなら、私は紛うことなくあなたの妻とされるのでしょうに……」
 小さくとも、サクラは精一杯の声を絞り出した。
 ふう、と蘇芳が息を吐く。
「……わたしにとっては大切な事なのじゃ」
 頬が焼け落ちるかと思われるほどの視線をサクラから外した。
「確かにここにはそなたの縁者はおらぬ。披露目をすると言っても、先にわたしの妻となった者と、あとは侍女ばかり。じゃがな……」
 燈台の灯りが、ジジ……と爆ぜる。炎が揺らめいて、蘇芳の影も何かに迷っているかのように揺れた。
「ヒトの慣わしをなぞって、わたしはただ、安堵したいだけなのやも知れぬ」
 自嘲めいた声と共に、唇の端を引き上げた。


 三日目の朝は、サクラの方が先に目覚めた。自分の腕が蘇芳の腕を抱いていないことに安堵の息を吐き、それでも焦点も合わぬほど間近にある蘇芳の横顔に居心地の悪さを感じて、己の身を少しばかり遠ざけてみる。黒々と水の流れのようにうねる髪が、蘇芳の白い頬を一層白く縁取っていた。
 サクラはそっと手を伸ばし、唇にかかる髪の一筋を指先で横に梳き流してやった。蘇芳の眉が少しだけ動いたように見えて、慌ててその手を引く。
 ヒトの世の慣わしを、大切になぞっている夜叉。すげなく「意味の無いこと」と非難めいた事を言ってしまったが、言い過ぎたのではないかと今は悔やんでいる。そうまでしてヒトの世との繋がりを断ち切れずにいる夜叉の、哀しい決め事だったのだろう。
 あの山の中で、郷の人の手にかかって消えるはずだったこの命。それを救ってくれた夜叉の何が不服で、ささやかな拠り所である儀式さえ拒んでしまったのだろうか。この先――残された時がいつ迄続くのか見当もつかない。だが自分に残された時は、蘇芳がくれたものなのだ。それを思えば、アヤメの念などに臆している自分が恥ずかしくなってくる。
 サクラは遠ざけた身体を、ほんの少しだけ寄せた。桜の香が、ふわりと鼻腔をくすぐる。(ふすま)の下で、身体の温かさがまるで直に触れているかのように感じられた。瞼を閉じてみれば、桜の花弁に抱かれているようにも思える。
「蘇芳の君……」
 小さな声で呼んでみた。
「……何じゃ」
 思いがけず応えが返って来たことに、サクラは驚いた。
「起きていらっしゃったのですか」
 知らず、声が非難めいたものになる。蘇芳がその瞼を開き、苦笑するような眼差しをこちらに向けた。
「朝は早いので、な」
 そろそろ目覚めるという時分にそなたがごそごそと動いたからだ、と蘇芳は続けた。
「起きているなら、そうおっしゃって下さい」
 サクラは寄せた身体を再び離そうとした。その肩を、蘇芳の腕が離れられぬように抱き留めた。
「……もう少しだけ、このままで居てはくれぬか」
 単衣の袖が頬にかかる。衣を通して触れる蘇芳の身体から、桜の香が一層強く薫った。
「そなたが嫌だと言うなら、露顕はやめにしても良い」
 一方の腕をサクラの頭の後に添える。そうして己の顔を見るなとでも言うように、そのまま胸に抱え込んだ。
「いつまでもヒトの慣わしをなぞっているようでは、未練がましいからの……」
 吐き出された言葉は、蘇芳の胸から直に響いて来る。弱々しくもあったが、何かを振り切るような強さも感じられた。
 サクラは蘇芳の胸に額を押し付けたまま、何度も瞬きをした。何かが胸の奥から突き上げて来る。彼が大切にして来た慣わしを今更止めさせるのは、とてもいけない事のような気がした。目の辺りが熱く感じられるのは、蘇芳の身体の熱なのか、それとも――。
「いえ、構いません。露顕も予め決めておられたように……」
 全てを言い終わらぬ内に、こめかみを、つ……と熱いものが流れて行った。


――この娘は、共に生きてはくれぬ――
 母屋で侍女が婚儀の用意をしている間、蘇芳は褥の上に座してサクラを見ていた。
 夜叉と契れば永の若さを得、少しは命も永らえようというのに、この娘はヒトに許されただけの命で良いと思っている。それが腹立たしくもあり、反対に、天晴れと称えたい気持ちにもなるのだが……ただ、他の者と同じ程には、共に生きる時間が長くないことだけは明らかな事だった。
 何故だかそれが口惜しいと思ってしまう。そしてそんな風に感じる自分を、蘇芳は持て余していた。
 室礼も整い、二人は母屋に渡った。侍女が餅の膳を持って現れる。
「さ、こちらに来るがよい」
 蘇芳はサクラを呼んだ。それに応えてサクラが目の前に座る。二人の間に膳が置かれた。
 先に手を伸ばしたのは、蘇芳だった。小さな餅が二つ、立て続けに形のよい唇の間を通って消えてゆく。サクラがそんな様を、不思議なものでも見るかのように眺めていた。
「どうした?」
 そなたも、と蘇芳が促す。サクラは我に返ったように、餅を口に入れた。
「あなたも……物を食すのですね」
 口の中のものを飲み込んで、サクラがぽつりと呟いた。
「おかしいか?」
 蘇芳は眉根を上げて見せる。
「ヒトの食すものは同じように口にできる。ただそれだけで良いというわけではないが、な」
 そう言って、三つめの餅を指先でつまんだ。
 サクラもまた、餅を手にする。
「……めでたい席じゃ。この話はこれでよしとしよう」
 蘇芳は何かを悔いるように薄く笑った。


 露顕は簡単に済まされた。引き合わされた古参の妻達は三人のみで、蘇芳の話からもっとたくさん居ると思っていたサクラは少々驚いた。
 それでもそれぞれ侍女が二人ずつ付き、室の中は華やかな彩りで溢れる。各々の思いを抱えての顔合わせであっただろうが、皆不平を言うでもなく淡々と儀式をこなしていた。
 そんな中、サクラはアヤメの方だけは見ることができなかった。またあの憎しみのこもった眼差しを受けてしまったら、心が折れてしまうのではないかと思った。時折投げかけられる視線を感じながらも、下を向いてそれをやり過ごすことしかできなかった。
 他の女達が室を去り、また蘇芳と二人、向かい合う。サクラはほっと安堵の息を吐いた。
「無事に終わったの」
 蘇芳が労いの言葉をくれる。サクラはただ頷き返すことしかできなかった。
 今日は昨日よりも幾分日差しが強いようだ。庭から渡って来る風も、心なし温かい。相変わらず散り続ける花弁が、ひらひらと室の中に迷い込んで来た。
 蘇芳はそれを指でつまみ上げると、掌に乗せ、ふ……と息を拭き掛けた。花弁はくるくると回って落ちる。その様を眺め、蘇芳はふとシノノメに目をやった。
「花嫁として披露目したからには、もう一人侍女が必要であろ」
 そう言って、懐に手を入れる。いつの間に用意したものやら、再び開いた掌の上には、先ほどと同じような花弁が乗っていた。
「これは現し世の桜じゃ」
 ふるふると震える花弁は、散り続けるだけの『亜』の世のものとは違い、命の気を持っているように見える。サクラが見ている目の前で、再び蘇芳が息を拭き掛けた。
 花弁はくるくると回り、空中に浮かび上がった。次第にそれがゆっくりとなり、輪郭がぼやけ始める。膨らみ始めた淡い桜色の色彩の向こうに室の様子が透けて見え、うっすらと霞がかかったように広がった。霞は徐々に色を増し、形をはっきりとさせ、人の姿となる。何度か瞬きをする内に、それは桜色の着物を着た侍女になった。
「アキギリじゃ。シノノメ同様、そなたの世話をする」
 蘇芳がそう言うと、アキギリと呼ばれた侍女はその場に座り、サクラに向かって手をついた。
「アキギリと申します。これからサクラ様のお世話をさせて頂きます」
 最初に出会った時のシノノメのように、抑揚の無い話し方だった。
 シノノメがアキギリの傍に座って軽く頷く。揃って手をついて頭を下げると、侍女二人は共に室を出て行った。
「さて、そろそろ参ろうか」
 侍女の姿が見えなくなると、蘇芳はそう言って、立ち上がろうとした。その身体がふらりとよろける。
「……!」
 咄嗟にサクラは手を伸ばし、自分より大きな身体を支えようとした。だがその重さに耐えかねて均衡を崩し、蘇芳もろともその場に膝をついてしまった。
「……蘇芳の君?」
 膝の痛さに顔をしかめながら、サクラは蘇芳を見上げた。その頬は今まで見た中で一番白く、血の通った者の色ではないように見えた。
「ああ、すまぬ」
 うつむいたまま、蘇芳は薄く笑った。その表情には生気が無く、辛そうに見える。
「現し世の華は全て散ってしまったのでな」
 床を見つめたまま、蘇芳は言った。
 ――(はな)の頃には、桜の気を。桜無き時は、ヒトの血を……。
 村人の刃から助けてもらった時に、蘇芳が言っていた。ヒトの肉だけが糧ではなく、桜の華からも糧を得ることができるのだと。そしてそれが無い時には……。
「……ヒトの血が要るのですか?」
 サクラの問いに、蘇芳が苦く笑んだ。
「聡い娘じゃ。覚えておったのか」
 そう言って立ち上がろうとする。だがその足はよろけ、再び膝をついてしまった。
「術を使ったので、気が足りなくなってしまったようじゃ」
 下を向いたまま、サクラに視線だけを向ける。
「三日夜の餅の儀が済むまでは他の花嫁のもとには通えぬ。いつもは床の内で(にい)の花嫁からもらうのだが」
 それが何を意味しているのか――それぐらいはサクラにも分かった。寄越される眼差しが蠱惑的で、サクラの背に甘い疼きが走り、息が苦しくなる。
「そなたにそれを望むのは、無理なようだからの」
 蘇芳が視線を外す。サクラは急に呼吸が楽になったように感じた。
「床の内でなければならないのですか?」
 ふと心に浮かんだ問いを口にする。この『亜』の世に入る為にした『血の契り』のように、何処であっても出来るのでは、と思ったのだ。
 蘇芳がまた、苦く笑んだ。
「情を交わしている最中(さなか)なら、花嫁も血を取られたことには気づかぬ」
 立ち上がるのを諦め、蘇芳はその場に座った。辛そうにしかめた眉の下で、ヒトを惑わすという美しい夜叉の瞳が揺れた。
「……自分がヒトとは違うモノであるのだと、嫌でも認めなければならない瞬間だからかも知れぬな」
 何かを諦めたように目を瞑る。その姿が痛々しくて、サクラは蘇芳の袖を強く握った。
「血だけで良いのならば……」
 必死の思いで声を絞り出す。
「私の血をお飲み下さい」
 そう言ってサクラは唇を引き結び、蘇芳を見据えた。怖くないと言えば嘘になる。夜叉に自分の血を分けるということがどういう事なのか、見当もつかない。だが……。
「これが今の私にできる、せめてもの恩返しです」
 蘇芳を支える腕に力を込める。永の若さを得るために情を交わすことはできないが、ヒトと夜叉の間で揺れる蘇芳の惑いを少しでも受け止めてやりたかった。
「恩返し?」
 蘇芳が訊き返す。
「見捨てることもできたのに、あなたは私を村人から助けてくれました。その恩返しです」
 サクラは真っ直ぐに蘇芳を見つめた。蘇芳がその視線を避けるように顔を背ける。
「自分のものを他人に取られたくなかっただけじゃ」
 吐き捨てるように言った。
「それでも!」
 サクラはそんな蘇芳の前に身を乗り出した。
「私にとっては有り難いことだったのです。あの時は恐ろしさゆえ気の利いた事も言えませんでしたが……蘇芳の君に助けて頂かなければ、今の私は在り得ないのです。ですから……」
「情を交わすのは嫌だと言うのに、血を取られるのは構わぬと言うか」
 蘇芳が苦しげな視線を寄越す。それは術を使って気が足りなくなってしまったからなのか、それとも別の意味があるのだろうか。
「恩返しをすると?」
「はい」
 サクラの応えに、更に蘇芳の表情が曇る。
「……ならば、有り難く頂こう」
 そう言った蘇芳の瞳の奥が、ほのかに金緑に光った。
 サクラの肩を両の手で掴み、指先で衿元に掛かる髪を後に梳き流す。白い首筋に唇を寄せ、一気に突き破った。
 温かいのは、自分の血か。痛みの上に流れるそれを、蘇芳が舐め取っている。触れる唇の感触に、サクラの背がぞわりと疼いた。間近に在る蘇芳の髪の色が、心なし薄くなったような気がした。そんな筈はないと、サクラは目を瞑った。
 『血の契り』よりも随分長い間、そうしていたように思えた。袿の袖の内にあっても、手指が冷えて来るのが判る。甘い疼きが冷えた身体に一層強く広がった。掴まれた肩に感じる蘇芳の手の力と、破られた皮膚の痛みが、かろうじてサクラの正気を保った。
――蘇芳の君に喰われる時は、こんな心持ちなのだろうか――
「蘇芳の……」
 このままずっとこうしていれば、自分は死んでしまうのかも知れない。うっすらと霞がかかったようになった頭の中で、だがそれさえも凌駕してしまうほどの甘い疼きにサクラは耐えていた。
「……ラ。サクラ」
 自分を呼ぶ声にサクラは我に返った。ゆっくりと目を開いてみると、間近に蘇芳の顔があった。
「大丈夫か」
 まだ赤く濡れた唇で、蘇芳が問うた。
「はい」
 少し頭が重かったが、サクラは気丈に応えた。
「……すまぬ」
 サクラの肩を抱いたまま、蘇芳が苦しげな顔をする。
「度の過ぎた『恩返し』をさせてしまった」
 そうして、一層強くサクラの肩を抱いた。
「わたしは……夜叉じゃ」
 そう言った蘇芳の声が震えているような気がして、サクラは彼の背にそっと手を添えた。